代表的な予防の対象
犬で大切な予防
1)混合ワクチン(感染症予防)
犬の混合ワクチンは、「一度かかると重症化しやすい感染症」をまとめて予防するためのワクチンです。国際的な考え方では、犬ジステンパー/犬アデノウイルス(肝炎など)/犬パルボウイルスは、分布が広く重症化しやすいことから“コア(基本)”として重視されます。
そして日本の現場では「〇種混合(5種・6種・8種・10種など)」という呼び方がよく使われますが、ここがややこしいポイントで、“数字=中身が完全固定”ではありません。なので当院では「何種か」よりも、どの感染症を、どんな生活リスクから守りたいかを先に整理します。
よくある「〇種混合」のイメージ(※製剤により差があります)
- 5種:ジステンパー/伝染性肝炎(CAV-1)/アデノウイルス2型(呼吸器)/パルボ/パラインフルエンザ
- 6種:上記+(犬コロナウイルス などが追加されることが多い)
- 8種:6種+(レプトスピラ2つが追加されることが多い)
- 10種:8種+(レプトスピラがさらに追加されることが多い)
混合ワクチンで守る主な病気(犬)
ここからは“病名ごと”に、何が怖いか/どう感染するか/人にうつるかを整理します。
犬ジステンパー
- 怖さ:発熱、咳、鼻水などから始まり、重症化すると肺炎や神経症状(けいれん等)に進むことがあります。回復しても後遺症が残るケースがあり、若い子ほど注意が必要です。
- 感染経路:感染犬の咳・鼻汁などを介した接触、飛沫など。
- 人への影響:通常、人にうつる感染症ではありません(ワクチン株は人に病原性なしとされています)。
犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型:CAV-1)
- 怖さ:肝臓に強い負担がかかり、急性で重くなることがあります。
- 感染経路:感染犬の排泄物(尿など)や環境を介して広がることがあります。
- 人への影響:通常、人にうつる感染症ではありません。
※実際のワクチンはCAV-1そのものではなく、**犬アデノウイルス2型(CAV-2)**を使って肝炎(CAV-1)を含む予防を狙う設計が一般的です。
アデノウイルス2型(CAV-2:呼吸器)
- 怖さ:咳などの呼吸器症状を起こし、いわゆる“ケンネルコフ(咳が長引く症候群)”の一因になります。
- 感染経路:飛沫・接触(多頭環境、預かり施設などで広がりやすい)。
- 人への影響:通常、人にうつる感染症ではありません。
犬パルボウイルス感染症
- 怖さ:突然の激しい嘔吐・血便、強い脱水などで急速に悪化することがあります。特に子犬では重症化しやすく、治療も長期化しがちです。
- 感染経路:糞便を介して感染し、環境中でも比較的しぶとく残るため、家庭内や散歩導線で持ち込まれることもあります。
- 人への影響:通常、人にうつる感染症ではありません。
犬パラインフルエンザ
- 怖さ:咳・くしゃみなど上部気道症状の原因になり、これもケンネルコフの一因になります。
- 感染経路:飛沫・接触(トリミング、ホテル、ドッグランなどで広がりやすい)。
- 人への影響:通常、人にうつる感染症ではありません。
(追加されることがある)犬コロナウイルス感染症
- 怖さ:下痢や嘔吐が続き、子犬では急激に悪化して命に関わることもあるため、早めの対応が重要です。
- 感染経路:糞便を介した感染が中心です。
- 人への影響:犬から人へ一般的に問題になる感染症として扱われることは通常ありません。
(8種・10種で重要)レプトスピラ症(人獣共通感染症)
- 怖さ:腎臓や肝臓に強いダメージが出たり、黄疸や出血傾向など重い症状になることがあります。
- 感染経路:主に感染動物の尿で汚染された水たまり・土壌などから、口や傷口、粘膜を介して感染します。雨の多い季節や、川沿い・草地・ぬかるみの散歩導線はリスクが上がりやすいです。
- 人への影響:人にも感染するため、犬の発症は“ご家族の安全”にも関係します。
- 重要ポイント:「レプトスピラは1種類」ではなく、血清型(タイプ)が複数あります。
例として、4価(L4)ワクチンは カニコーラ/イクテロヘモラジー/グリッポチフォーサ/ポモナの予防を目的にした製剤があります。
つまり「10種だから強い」ではなく、**“どの血清型まで守る設計か”**が実務上の価値になります。
2)狂犬病予防注射(※犬のみ)
狂犬病は、人を含む哺乳類に感染しうる重い感染症で、日本では法律に基づいて犬の登録と年1回の予防注射が求められています。
日本国内では長期的に発生が確認されていない状況が続いている一方で、万が一侵入すると社会的影響が非常に大きいため、これは「その子のため」だけでなく地域全体の安全を支える予防策です。
3)フィラリア予防(蚊が媒介)
フィラリア(犬糸状虫症)は、蚊を介して感染し、心臓や肺の血管に負担をかける病気です。進行すると呼吸が苦しくなったり、運動に耐えられなくなったり、やがて死に至ることすらあります。
この病気は、かかってからの治療が長期にわたり困難になる一方で、予防薬でコントロールしやすいのが特徴です。
稲沢市でも、蚊を「完全に避ける」ことは現実的に難しいので、当院では散歩時間帯、屋外滞在、同居動物、住環境などから、開始時期・終了時期を生活に落とし込んだ形で決めます。
4)ノミ・マダニ予防(皮膚トラブル+感染症対策)
ノミは強いかゆみや皮膚炎の原因になり、体質によっては少数の寄生でも一気に悪化することがあります。マダニはさらに重要で、皮膚の炎症だけでなく感染症を媒介するため、「かゆみ対策」だけで終わりません。
特に近年、注意喚起が強いのがSFTS(重症熱性血小板減少症候群)です。
つまりノミ・マダニ予防は、犬自身の皮膚を守るだけでなく、ご家族のリスクも下げる“生活防衛”の意味を持ちます。草むらに入らない散歩でも、ゼロにはできません。だから当院では「やる・やらない」ではなく、まずその子の生活導線で、どこにリスクがあるかを整理します。
猫で大切な予防
1)混合ワクチン(感染症予防)
猫の混合ワクチンは、一般的に
・猫ウイルス性鼻気管炎(ヘルペス)
・猫カリシウイルス感染症
・猫汎白血球減少症(猫パルボ)
を中心に予防する“3種”が基本になります。
猫の感染症は、症状が「少し元気がない」「なんとなく食べない」から始まって、脱水で一気に崩れることがあるのが怖いところです。ワクチンは万能ではありませんが、重症化を抑え、回復の見通しを立てやすくする意味が大きい予防です。
また、室内飼いでも、来客・通院・同居動物・人の衣類など、導線がある以上“完全ゼロ”にはならないので、当院では暮らし方から必要度を整理します。
(※4種・5種と呼ばれるものは、FeLV等が追加される設計があり得ます。ここも「数字」ではなく「守る病名」で確認します。)
2)フィラリア予防(※猫も感染します)
フィラリアは犬の病気と思われがちですが、猫も感染し得ます。猫は犬ほど典型的な経過を取らないことがあり、見つけづらい・判断が難しいケースがあるため、「だからこそ予防」という考え方が出てきます。
完全室内か、ベランダに出るか、同居犬がいるかなどで優先度は変わるので、当院では“必要かどうか”から一緒に整理します。
3)ノミ・マダニ予防(皮膚トラブル+感染症対策)
猫のノミは、かゆみ・皮膚炎だけでなく、体質によって強い悪化を起こすことがあります。マダニも、外に出ない子でも人の衣類や持ち物で持ち込まれる可能性がゼロではありません。
そして猫で特に重要なのが、犬の項目でも触れたSFTSです。猫は重症化しやすいことが指摘され、発症動物から人への感染が問題になっています。
愛知県でも人の発生状況(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kansen-taisaku/sfts.html?utm_source=chatgpt.com)が公表されている以上、「室内だから大丈夫」と決め打ちせず、玄関導線・来客頻度・同居動物の外出なども含めて、現実ベースで必要度を判断します。